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Shining wind~道標になるために~

その力は俺を選んだ  何も出来なかったと嘆いていた俺に使命を与えた  俺に何が出来るのか今はわからない   だけど進もう  護るべき者の道標となるために・・・

【偽イベシナ】夜空に咲く花と輝く宝石~夏の思い出~

「風樹~、いる?」
【星月夜】寮の団欒室。
のんびりとテレビを見ていた風樹に、蓮花が声をかけてきた。
風樹が肯定の返事をすると、彼女は目の前に1通の手紙を渡した
「ママ達から手紙。たまには帰ってらっしゃいって…」
手紙は蓮花の母親で風樹の乳姉弟である、雨月風花からだ。
内容は蓮花が言った内容でほぼ間違いないのだが・・・
「ん?これなんだ?」
風樹は封筒の中に入っている三つ折りのパンフレットを見つけた。
それはどうやら花火大会のパンフレットらしい。
「へぇ、湘南で花火大会か。」
湘南海岸は彼等の実家である鎌倉から江ノ島電鉄で出かけることができる…
「…蓮。花火、見に行ってみたいか?」
「うん!」
風樹の問いに即答する彼女。
「じゃぁ、家に帰るの?浴衣着れるね?」
「そうだな、浴衣着て下駄はいて・・・だな」
やったー!!とはしゃぐ蓮花。しかし、ハッと思い出したように風樹の顔を見た
「ねぇ風樹…クラブや友好の皆も一緒に行けたら、もっと楽しいよね?」
ふっと顔を上げる風樹・・・
暫くして蓮花の顔を見てにっこりと微笑んだ。
「蓮、ナイスアイディアだ。ちょっと姉貴に連絡とってみるか…」




「・・・と言うわけで、皆で花火を見に行こうと思うわけだ」
数日後の夕方、寮の団欒室に集まった仲間達に風樹が話をする
「うんとね~。場所は湘南なの。私の家から電車でいけるんだよ。」
と、蓮花が楽しそうに話す。それに…と風樹が笑いながら付け足す。
「…便利なことにその会場から近いところに、雨月家の別荘があるんだな」
そこで一泊するから宿とかの心配はいらないという。
「あ、でもね?小学生が多いからって、私の両親も来ることになっちゃったのね」
それはごめんね?と、蓮花。そんな彼女の頭を撫でて、風樹はもう一言付け足す
「まぁ、姉貴達は別荘の離れで泊まるって言ってたから。母屋は俺達が自由に使って良いそうだ」
そしてみんなの顔を見て締めくくった。
「そういうわけで、予定のつく人は一緒に行こうぜ?姉貴達にも遠慮はいらないから」

さてさて、どんな旅行になるのやら・・・

  ******************************


●やってきました!雨月家別荘!
「よし!皆お疲れ様。雨月邸別荘に到着だ」
東京駅から藤沢駅で通称『江ノ電』と呼ばれている江ノ島電鉄に乗り換え、雨月家別荘に到着した『星月夜』メンバー一行。
門を管理人に開けてもらい、玄関へ・・・
そこには一組の夫婦が、待っていた。
女性は艶のある長い黒髪を編みこみ、清潔感のある夏服にエプロン姿。
そしてどこか蓮花の顔立ちと似た雰囲気である。
男性はTシャツにGパン姿、女性とは対照的に明るいオレンジ色の髪の短髪姿。
「お帰り、蓮花。風樹。そしてようこそ、『星月夜』のみんな。いつも二人がお世話になってありがとう」
そういって微笑んだ女性は、蓮花の母親であり風樹の乳姉弟の雨月風花。現雨月家当主でもある。
「お帰り、俺の天使。『星月夜』のみんなも、うちの蓮花が世話になってありがとうな」
そういって蓮花を抱き上げ皆に挨拶した男性は、風花の夫で蓮花の父親の那月だ。
メンバー全員が、お世話になります。と二人にお辞儀をする
「那月兄・・・俺は?」
またか、と言うように風樹が言う。
「おう!悪い悪い・・・風樹もお帰りな?」
「・・・ったく。かわんねぇな、兄貴は」
軽く苦笑して玄関へ行く風樹を見つつ、メンバーは顔を見合わせる。
「あぁ、気にしないで?あれは彼と風樹のいつもの会話よ。帰って来る度あぁやっていってるの」
くすくすと笑いながら、風花がメンバーに説明する。
仲のいい証拠なのよね?ちょっと羨ましいわ。と、二人の背中を見ながらもう一言、彼女は付け加える。
ようやく皆に緊張が解け、笑顔が戻った。

「今日のことをおかーさんに話したら、持って行きなさいと言われたのです」
と、台所にいる風花に焼き菓子を渡すのは瑠理香。
彼女は礼を言うと、後で皆と食べましょう。と瑠理香に微笑んだ。

「なぁなぁ、雨月のかーちゃん。甚平とか浴衣ってあんの?」
次に風花に声をかけたのは蓮花のクラスメイトの一。
そうねぇ。と少し考えてにっこりする風花。
「あぁ、確か風樹の甚平があったわ。ちょっと探して持ってくるわね?」
しばらくして彼女が持ってきたのはヒーロー物の絵柄の入った甚平だった。
「これなら着れそうね。風樹は背が高かったから…一君くらいだと年長さんの時の甚平のほうがいいかしら?」
と、心配していたがどうやらぴったりだったようで、よかったわ。と微笑んだ。

みんなが浴衣や甚平に着替え、時間まで寛いでいると座敷に那月が入ってきた
「どうした?兄貴」
「風樹・・・確か秋夜も来てたよな?」
そういえばいないな。と風樹も周りを見渡す。
「秋やんならさっき、外に出かけたよ」
と、風樹に声をかけたのは、紺色に白線の入った浴衣を着た宥氣だ。
何故いなくなったのか・・・それを悟った風樹は、くっくと笑う
「兄貴・・・秋に気付かれたな?説教するつもりだった事」
那月は弐之瀬秋夜にとっては叔父である。東京では彼が秋夜の親代わりのようなものなのだ。
ゆえに彼の行動はもちろん全て把握しているわけで・・・。
「・・・ったく!あいつは逃げ足だけは速いからなっ」
まぁ、いい。始まる前には戻ってくるだろうから・・・と、リビングに戻った

この後、様子を見ながら帰ってきた秋夜が那月にこってりと説教されたのは言うまでも無かった

 

●屋台通り
花火大会の時間が近づき、一行は会場になっている海岸へと向かう。
小学生の4人、蓮花・一・瑠理香・美月を中心にしてその周りを中高生のメンバーが歩く。
海岸までの道にはたくさんの屋台のいい匂いが鼻をくすぐっていた

「お!あれたこ焼きじゃん。食いて~!」
一が瞳を輝かせて屋台を見る。
「じゃぁ待ってて?僕が買ってくるよ」
と、宥氣が屋台へ。しばらくして出来たてが入っている箱を二つ抱えて帰ってきた。
なぜ二つなのか?の質問に、実は僕も食べたかったんだ。と、彼は答えて微笑んだ。
「あ!綿あめです。美味しそうなのですぅ」
今度は瑠理香が綿あめの屋台を見つける
じゃぁ、ボクが買ってくるね?と、みとわが屋台へ。
帰ってきた彼女からそれをもらった瑠理香はお礼をこめて、そっと手を握って一緒に歩いた

和夜と手を繋いで歩いていた美月は、りんご飴の店の前。
食べる?と聞く和夜に、美月はこくんと頷いて・・・
大きめのりんご飴を買ってもらって、和夜の頬に背伸びをしてキスのお礼をした
「美樹お兄ちゃん、かき氷食べよう?」
そういって美樹の黒の甚平の裾を引っ張ったのは蓮花。
「おう、いいぞ。なんにするんだ?」
「うんとね~、イチゴがいいな」
美樹からかき氷を受け取ると嬉しそうに受け取って口に運ぶ。
「冷たくっておいし~」

「よし、夕凪とオフィーリア。これは俺の奢りな?」
と風樹が二人にチョコバナナを一本ずつ。
礼を言う二人に、にっと笑顔の風樹。
「はぁ・・・はぁ。ようやく追い着いたぜ!」
と、息を切らして走ってきたのは秋夜だ。
叔父の説教が何とか終わってやっと合流できたのだ
早かったな。と笑いながら言う風樹に苦笑して、まぁな。と答えた。
「ほら、お前のだぜ」
と缶コーヒーを秋夜に軽く投げて渡す。
「サンキュ、わりぃな」
そして一気に飲み干した


●花火大会
  
 ポンッ!ポポンッ!パァーン!パーーーン!

時間になって花火が上がり始めた。
赤・黄色・青の花火が夜空いっぱいに広がった
堤防の石段に座った『星月夜』メンバーはその音とともに見上げた
「すっげぇなー!ワクワクするぜ」
「すごい、本当に空に花が咲いたみたい!」
テンションの上がった一とオフィーリアが感嘆の声を上げる
とくにオフィーリアは花火は初めてで、しっかり童心に返ってはしゃいだ。
「わぁ!ほんと、すごい。綺麗だ…」
みとわも我を忘れて瞳をきらきらと輝かす
「たーまやー!」
と大きな声で叫んだのは瑠理香。
蓮花がなぜその言葉を叫ぶのかと聞くと、わからないけど花火のときはこういうらしいと答えた。
「じゃぁ、私も次は言ってみよう!」
花火は次々と上がって大輪の花を咲かす。
「「たーまやー!!」」
瑠理香と蓮花が声をそろえる。
「和夜、私見えない・・・」
そういって美月が和夜の紺ベースの甚平の袖を引っ張る。どうやら堤防には座れなかったようだ。
和夜は後ろの客に気を使いながら、そっと美月をおんぶした。
「わぁ~きれいだね!」
瞳をきらきらして空を見上げる彼女を背中に感じて、和夜も微笑んだ。

花火の間の小休憩。
ふっと一がみんなを振り向いて思ったことを言った
「なあなあ、花火って綺麗だけどさ、下から見たり横からみたらどうなってんだろ?」
その質問に全員、顔を見合す。
「確かに・・・あまり見たことないね」
と、ちょっと思案顔の宥氣。
「そう言やぁ横や後ろとか…花火は前から見てたから、本当どうなんだろうな」
美樹も腕を組んで考える。
「見たことある奴居る?超気になるんだけど」
「俺は分からん!」
と、秋夜は伸びをする
「見たわけじゃないんだがな・・・」
秋夜の言葉に微笑みつつ、風樹が一の顔を見る。
「日本の花火はどこから見ても綺麗に見えるように計算されて作られてると聞いたことあるぞ。」
海外にも花火はあるが、そういう細かさが違うらしい。
「日本の花火の細かな美しさは海外では評判なんだ。」
へぇ~と、一は納得する。
「あ!みんな。花火の後半始まったよ!」
蓮花の声で全員空を見上げる。
色とりどりの花はその後も漆黒のキャンバスに色をつけていったのだった


●それぞれの時間~別荘にて~
花火大会も終わり、別荘へ帰ってきたメンバー。
風花が切り分けた西瓜を食べながら団欒が始まった中、一は自分の荷物を探っていた。
「なぁ、みんな!」
その彼の声にみんなが注目する
「じゃーん!第二次花火大会だぜ!」
一は得意そうに、花火セットを取り出した
「へぇ、花火セット・・・懐かしいな」
宥氣がそれを眺めて言う
勢いよく噴出すもの、線香花火、変り種花火など色とりどりだ
宥氣と瑠理香は線香花火を持って、その変わっていく小さな炎を楽しむ。
「あ!また落ちちゃったのです」
いくつめかの線香花火・・・瑠理香はしゅんとして、長く続いている宥氣の手元のそれを見る。
「線香花火はさ、コツがあるんだ」
と、宥氣は彼女にそのコツを教えはじめた。
もうひとつの集まりは、みとわを中心に蓮花、美月、オフィーリア、紗雨のグループ。
大きめのロウソクにつけた火を火種にして、それぞれの花火を楽しんでいた
「あれ、一。どこいくんだ?」
ほかのメンバーがそれぞれの花火で盛り上がっているのを縁側で見ていた秋夜と風樹
こっそりと何処かへ行こうとしていた一に気がついた
「ん~、ちょっとな~」
にっしっしと悪巧みの笑顔の一・・・
「そっちは離れのほうだぜ?那月兄達に何かするなら、やった後は全力で逃げて来いよ?」
風樹が苦笑して彼に言う。
あぁ、そういうことか。と秋夜もうなずいた。
「しかし勇気あるよな、一。なあ風樹、風花さんって驚かしたらどんな反応するんだろうな」
「・・・やってみるか?」
秋夜の言葉に、ちょっとため息をついて風樹がいう
「お、俺はやらねえよ!那月叔父さんに灼滅されちまう!」
那月を怒らせるとどうなるか・・・肌でいつも感じている秋夜は身震いしてそう言った
それが賢明だな。と風樹は笑った


こじんまりした離れの玄関。
(蓮花の両親にはちゃんと挨拶しておかないとな)
そう思いながら呼び鈴を押したのは美樹だ。少し緊張気味である
応対に出た風花は微笑んで彼を中に入れた
「お邪魔しまっす・・・」
いらっしゃい。と那月も笑顔で迎えた
「その、れ…お嬢さんと風樹には本当お世話になってるっす」
「あぁ、風樹からも蓮花からも君の名前はよく聞くぜ。なかなか良い奴だって」
「蓮花なんかとても嬉しそうに話していたわよ?かっこいいんだよ~って。」
ふふっと那月の顔を見ながら、風花が美樹に言う。
するとちょっとむすっとする那月・・・
そんな那月の顔に少し焦っている美樹に、風花はくすっと笑う
「娘を持つ父親は誰であれ、男の子の話が出るとあぁいう顔をするものなのよ?」
常に父親である自分が一番であってほしいのよね?と、付け加えて・・・
「おい、風花。一言多いって…」
那月が苦笑すると、あら、ごめんなさいね?とくすくすと笑う
「・・・まぁ、やんちゃで元気な娘だが、よろしく頼むよ。風樹や秋夜と一緒にな?」

次に離れに来たのは和夜と美月。
こちらも、お世話になりますと挨拶をして。
しっかり者の二人に風花は感心しながら話をしていた。
もし、メイドや執事が必要なときは是非声を掛けて下さいね?と笑顔で言ってみたりする二人。
「えぇ、そうね。二人が卒業した時に、そういう時期だったら頼んでも良いわね」
そういって風花は微笑んだ


 母屋の表側の縁側に座って夜空を眺めている影がある
メンバーの中で初めてづくしの経験をしたオフィーリアだ
日本庭園を思わすような広い庭と別荘と思えないほど大きな家
そしてやさしく迎えてくれた親という存在・・・
「立派な家と素敵な家族があって、羨ましいな……」
自分の生き方に後悔しているつもりはない。ちょっと、ほんのちょっと羨ましくなっただけで・・・
「はは、私らしくないな。もう寝ようっとっ」
そういって立ち上がり、速足で寝室になっている部屋へ向かった

 

翌朝、それぞれに思い思いの夜を過ごしたメンバーは、出された朝食をしっかり食べて、
鎌倉までは雨月家の人達と一緒のマイクロバスで向かい、それぞれの家にとお土産をもらって東京への帰路につく。
またいつでもいらっしゃいな?と、風花がほほ笑んで。
うちの姫をよろしく頼むな?と、那月が蓮花の頭をなでながらメンバーに笑顔を向けて
「お世話になりました」
と、女性年長者のみとわと和夜が礼を言うとメンバーはそれぞれに礼をいった。


楽しかった夏ももうすぐ終わる
まだまだ残暑は続くが、ゆっくりと確実に秋はやってくる。
賑やかだった蝉の代わりに赤トンボが多くなったように
夜空の星が秋の星座になるように。

東京行きの列車はメンバーを乗せ、ゆっくりと発車したのだった

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